
小野次郎さん連続インタビュー
「主権者学」(1)

今回は〈日本の政治の骨格=選挙〉がテーマで
選挙区と比例区、
一票の格差、
政治家の生い立ち、世襲政治家、
政治塾・公募の仕組み、
公認・推薦・無所属、
供託金、
自民党総裁選・党首選挙、のお話をうかがいました。
注:小野さんは、ワタシら向けに内容をかみ砕いて、分かりやすい部分を中心に説明してくださってます。
実際の「主権者学 講座」に出たらば、もっと詳しく知ることができるでしょう。
選挙区と比例区、一票の格差、のお話
まずね、これから初めて選挙に行く人もいるから、基本のところから話してみますね。
国政選挙、国会議員を選ぶ選挙には、選挙区の選挙と、比例区の選挙が、あるんですよ。
選挙区の選挙っていうのは、衆議院だったら、全国を290位の細かい選挙区に分けて、各選挙区ごとに候補者を選ぶっていうもの。
そしてもう一回投票をして、比例区の候補者を選ぶ。
これは、衆議院では各政党ごとに議席を按分比例するから、つまり比例配分して、割り当てられて、選ばれる方法なんです。
参議院の場合も同じように、都道府県ごとに選ばれる選挙区と、全国で選ばれる全国比例がいます。
だから衆議院も参議院も、候補者は選挙区と比例区の、2種類いるっていうことですね。
一票の格差って、きいたことあるかな。よく新聞に出たりするんですよ。
あれは、分かっているようで分かりにくい言葉なんですよ、一票の格差って。
現状は、一番人口の少ない選挙区と、一番人口の多い選挙区の割合を、一票の格差って言ってるわけでね。
たとえて言うと、クラスで試験やるとするじゃない。
すごく勉強ができる子が95点取るとするでしょ。で、できない子は40点だったとする。すると、40点と95点だと、まあ2倍ちょっとの開きがあるよね。それを言わば、一票の格差と言ってるわけ。
だけど、僕が学校の先生だとしたら、その差が、その幅が、あんまり広がっちゃうと、ちゃんと教育が行き届いてないっていう問題になるでしょう。例えば一人、20点なんていう子がいたりすると、90点の子は、4.5倍も取ったことになる。
だから、その、なんていうのかな、僕はその、選挙の格差っていうのは、平均の人口の選挙区を位置づけして、そこから、人口の多い選挙区はどれくらい離れてるか、または、少ない選挙区は下回っているか、っていうやり方で比べた方がいいと思うの。
つまり、偏差値ってあるじゃないですか。
50が平均でしょ。偏差値50と比べて、偏差値60とか偏差値40、というならいいのよ。
それを裁判所ではいつも、最低で、最高のを割って、それを2倍以下にしなさいとか言っているけど。一番低いので、一番高いのを単純に割ってもね。
僕はやっぱり、平均の地域、そこからどれくらい離れているか、上、下で比較して、その幅を見るようにしたい。見るのがいいと思うんですよ。
だからこの議論には、僕はいつも疑問があるわけなんです。

政治家の生い立ち、世襲政治家、のお話
日本で、政治家になるには、3つのことが必要だとよく言われます。
地盤
看板
かばん
かばんって、かばんにお金がどれだけ入ってるか、どれだけ資金を持っているか、ってことですよ。
ただ、これは25年位前に小選挙区制に選挙制度を変えたときに、1つの選挙区を小さくしたから、お金はずいぶんかからなくなったんですよ。
それと、1つの選挙区で、1つの政党から1人しか出なくなったから、その政党が応援してお金を負担するようになった。
前のように同じ政党から何人も出て、財力で差がつくってことはなくなったんですよ。前の中選挙区制では、自民党だけで1つの選挙区に3人も4人も出てたから。今は与党から1人、野党からも基本は1人なので、お金については、あんまり問題にならなくなった。
看板、っていうのは、肩書ということですね。
華々しいのは、やっぱり官僚とか、県議会議員、地方議員をすでにやってたとか、市長さんやってたとか、それまでも選挙に出てましたということがあれば、そういう人は国政選挙でも、まあ強いですね。
地盤についても、もちろん過去に選挙を自分でやってた人は強いですよ。
あとは、お父さんが政治家だったとか、おじさんとか親戚に政治家がいて、後援会もあるし、支持者もいるのを引き継ぐ形で、相続する形で、選挙に出てくる人。有利だな、世襲の政治家は。
正確に数えていないけど、たぶん日本の政治家の3割、3人に1人くらいは、なんらかの意味で世襲の政治家、最初から地盤を持っている人でしょう。
世襲政治の問題っていうのは、色々とあります。結局その選挙区に、地盤を持った世襲の人しか、政治家になれないじゃないか、みたいな。
ただ世襲の中にも、あらかじめ資質を持った人物も、もちろんいるわけです。
あえて世襲のいい面を挙げるとすると、昨日までまったく違う仕事をしていた人が、いきなり立派な政治家として仕事ができるか、というと、そうならない面もあったりするわけで。その点彼らは、政治の流れが分かっているとも言えます。

ワタシらの疑問。
世襲政治家の…その中には、政治家が、代々の家業みたいになって、特権階級みたいになってしまって、うっかり適任じゃない人物までもが、その地盤からするする当選して、権力にあずかってしまう、そんなことが起きたりはしないんでしょうか。
さて、どうなんだろ。
選挙制度の、さらなる改革みたいなことも、必要になるんでしょうか。
そのへんはまた改めて、考えたり質問したり、したいと思います。
小野さんには「主権者学」にそって、現状を教えていただきましょう。
政治塾・公募の仕組み、のお話
やはりね、世襲の政治家ばかりではいけませんよ、それはね。
その対策の一つとして、政党によっては政治塾を開いたりしてます。
そんな政治塾の中から、公募する。いや、政治塾じゃなくても、一般の人から公募する仕組みを作ってるところは多いでしょ。
自民党でも、次の候補者が決まっていない場合は、公募も取ります。
野党のほうも政治塾をやって、その中から立候補希望者を募るようなこともしてます。
そういえば、政治塾公募のことだけど、このまえ僕のところに相談があってね。
選挙に出たいと思って、政治塾を受けた人がいた。候補者になろうとして。そしたら、その卒業試験みたいなのに落っこちて、困ったという話なんですよ。
僕は答えたんです、政治塾も公募も、ふつうの資格試験とか公務員試験、大学入試、そういうものとは全然違うんですよ、と。
普通の試験は公平でなければいけないし、点数で決めるってことになってるでしょ。
だけど政治家になるための、候補者になるための仕組みの試験は、公平よりもまずはその人が、候補者になった人が、勝てるかどうかで、試験に受かるかどうかが見極められてくる。
政治家になりたいと言っても、なりたいと言っている選挙区に、その党がすでに政治家を持ってる場合は、もう新しい候補者は要りません、ってことでしょ。その人はだから、卒業試験に受かるわけがないんですよね。
それから、相手の党が極めて強い候補を立ててきてるという場合は、そんな弱い新人を立てても、絶対に勝てない。その人がいくら勉強しても不合格にされますね。明らかに最初から勝てないんだから。
勝つ、と言っても、いま横に並んでいる人と競争するんじゃなくて、そもそも選挙に勝たなければいけない。有権者に、選んでもらえる人でなきゃいけない。
選んでもらえない人は、いくら政治塾において優秀でも、意味がない。選んでもらえない、ということで。

うーん、なんだか厳しいんですね。
やる気も能力もあるけど、地盤も看板も、かばんもない人だと、ねえ。
市民一人一人に、そういう能力のある人を、推していってもらいたいなと思います。世襲の候補者しか当選しない、当選できないというのは良くないでしょ。
日本の選挙は、投票率が低いってききました。
みんなで参加して、将来設計を、みんなして描いていってほしいです。

公認、推薦、無所属、のお話
公認と推薦と無所属の、基礎知識をざっと確認しましょう。
公認は、党に所属していて、その党の候補として認められること。
推薦は、その党の候補ではないけれど、その党から推薦はしてもらえる立場。
無所属は、そのどちらでもない人の場合。
それで公認候補になると、選挙費用はかなり党が負担してくれる。公職選挙法上も、公認候補だと、党のほうから街宣車を出せる。
推薦候補は、もちろん党が支援・応援してくれますけれど、費用の負担は公認ほどではない。街宣車も党からは出せない。
つまり公認だと党の丸がかえで、お金の負担は少ないし、有利は有利です。
けれど、他党の支持者からは、支持してもらいづらい面があって、そこは不利ですね。
供託金、のお話
供託金は大きいですよ。衆議院の選挙にでる場合は300万、参議院も300万だけど、比例に立候補するとなると、600万円を供託しないといけない。
総務省にその金額をいったん振り込むんです。
そのお金は、落選したとしても、一定の票数を集めた人には返ってくる。ただし票数がないと没収される。
この制度はね、泡沫候補が名前出したくて、つまり売名行為で、立候補するのを避けるための、保証金制度なわけ。
または、例えばある有力候補者の足を引っ張るために、受かる可能性もない人物を対立候補に立たせて、票を奪う、なんてこともあるわけで。
それらの対策として供託金の制度がある。
政党で公認になると、供託金は党が出すんですよ。だけど最近はね、小さい党でお金がなくて、それを出せない党も出てきて、個人に負担させるってこともあるんですよね。そうなると、供託金の金額はちょっとデカすぎるんですよ。
それから、有権者の政治離れっていうのがあるから、近ごろは市議会議員の候補者とかで、たった一人しか出なかったりする。
あんた出ろ、いやあんたが、なんていうのが日本で続くと、供託金は、もっと安くしたらいいじゃないか、または、もうこの制度は止めたらいいじゃないか、ということは出てくると思いますよ。
いや、供託金はなくせばいいとは思うけども、でもゼロがいいかというと、どっかにヘンな、選挙をなんだと思ってるんだというような人が、いるってことも、頭に置いておかなきゃいけません。ということですね。

自民党総裁選挙・党首選挙、のお話
ところで、選挙についてしゃべってきたけど、選挙には、公職選挙法が適用されるじゃないですか。国政選挙にしても、地方議会や首長の選挙にしても。
ところが公職選挙法が、適用されない選挙っていうのがあるんですよ。
自民党総裁選挙、そして他の党の党首選挙。
これらには、公選法は適用されない。つまりなにをやっても、法律違反にはならない。
公正公平は関係なく、宣伝合戦。
それでね、かなりのお金が動く、なんていう話もあるんですよね。


ほ。お金が動くんですか?
そう。
お金が、動いてねえ。
日本でもそんなことが、あるんですかぁ。
民主主義を維持していくために、そういうことも、あったりするんだろうか…? う~ん。
もっとお話をうかがって、分かっていきたいです。